2005年クリスマス上演
「ゲハヂ」

原作 鈴木正久
脚本 廣石由加

【プロローグ】

鐘の音(ゴーン)、あるいは鈴の音(チリンチリン)、など。小鳥の声、水のせせらぎなど背景音。照明落とす。舞台袖で、ライヤー演奏。天国的イメージ。明るくテンポのよい曲。 ライヤー奏者のところだけ薄暗くスポットを当てる。

【第一幕】天国

ナレーション:
ゲハヂはね、元気でりこうな少年の天使だったよ。 今日もね、天国で走りまわっていたのさ。 犬やおおかみやねこも、みな負けずにゲハヂと一緒に走り回って遊んでいるのさ。 いのちの川の岸辺を、バシャバシャ水をはねとばしながら、かけていくとね、 ほら、キラキラと、水しょうやダイヤのように、水玉がとび散っているのがみえるだろう?

ゲハヂ、舞台中央まで来ると何か見上げるしぐさ。 跳びあがってつかもうとするが届かない。 上手からやって来た一人の青年の天使。 ニコニコしながら、(木からりんごをもぎ取るしぐさ) (あらかじめ手に持っていた)りんごを袖でふいて、ゲハヂに手渡す。 ゲハヂ、天使に向かってうれしそうに笑いかける。

ゲハヂ:
(嬉しそうに)ありがとう!

天使、笑いながら、手を振り、下手へ去る。 ゲハヂ、リンゴをおいしそうに食べるしぐさ。 その間、上手オルガンステージ上に、うつむき加減で、ガブリエル静かに登場。 ガブリエルにスポット。 ゲハヂ、ガブリエルに気づく。

ゲハヂ:
ガブリエルおじさん!

ゲハヂ、ガブリエルのほうに走っていき、駆け上がりステップを上がって手すりをくぐり、 ガブリエルの腕に中へ飛び込む。 ゲハヂとガブリエル、互いに手を取り、

ゲハヂ:
ガブリエルおじさん、何してるの?

ガブリエル:
(ふと思いついたように)そうだゲハヂ、お前も連れて行ってやろうかな・・・。

ゲハヂ:
(元気よく)うん! どこでもいいから連れてっておくれよ。ねえ、今日はどこ行くの?

ガブリエル:
今日か? 今日はな・・・、神さまのご用で降りてゆくのだ。


ゲハヂとガブリエル、並んで腰掛ける。 ゲハヂ、うれしそうに足をぶらぶらさせる。 親しいようす。ガブリエルは静かに座る。ゲハヂは何かをまって、ちょっとそわそわ。

ナレーション:
ゲハヂはね、どの天使も好きだったんだけれど、中でもガブリエルが一番好きだったんだよ。 まるで父親のようにね。 なぜって、ゲハヂは天国に来たとき、ガブリエルのうでの中にだかれて来たんだ。 それにガブリエルが天使のぐんぜい軍勢を引き連れて「神さまのご用」に出かけるときは、 とてもいさましいのさ。

【第二幕】ベツレヘムの町(一年前)

スクリーンに町のイメージ投影 町の賑わい。人々の話し声、ひづめの音、馬車の音、商人の声。 画面スクリーンに、ベツレヘムの町並み。賑々しい色合い。 その前を、通行人がせわしなく歩き回る。 商人が2,3人、舞台奥に座り込む。 ゲハヂ、一歩前に出て、その町の風景をよく見ようとしながら、 ガブリエルのほうを向いて(バックの喧騒、小さくする)

ゲハヂ:
おじさん、ここ、ぼく、知ってるよ・・・。 ほら、あれ、(舞台下手を指差す) ぼくだよ! ここに来る前のぼくだ。 あっ。とうさんだ。 とうさ〜ん。

ガブリエル、ゲハヂを見て、うなずく。

ナレーション:
ゲハヂは、はっきりと思い出した。 ちょうど一年前、ここで気がついた時、ゲハヂはガブリエルのうでにだかれていたのだ。 その時、ゲハヂは、ここの通りの道を歩いていたのだ。 戦争で土地をなくし、無一文(むいちもん)になって追われるようにガリラヤのふるさとをあとにした父親といっしょに。

下手から、フロントステージへゲハヂと父親が手をつないでとぼとぼと歩いてくる。 いかにも長旅をしてきたような姿。 杖をつき、肩に荷物を乗せて、疲れた様子でよろめく父親をゲハヂが支えるようにそばを歩く。

ゲハヂ:
(舞台上手を指差して) あっ、ほら、とうさん。 エルサレムこっちって書いてあるよ。 よかった。 やっぱりこっちでよかったんだねぇ。(不安そうに、しっかりたしかめる口調で)ねえ、とうさん、エルサレムのみやこへ行って、大丈夫なんだよね。ねえ。おうちは? 食べ物はどうするの?

父親:
(弱々しくうなずきながら、小さな声で)ああ、ああ。(ゲハヂの手を胸の前で両手で握る)ゲハヂ、お前はかしこい子だ。 大丈夫だよ。 神さまがきっと何とかしてくださる。

メインステージ上を人がだんだん行き来するようになる。 人の密度が高まる。 ワゴンのようなものを押していた商人が、父親に声をかける。

商人:
そこのおふたりさん、おいしい干しイチジクがあるよ。どうだい? おなかをすかせたぼっちゃんにひとつ?

父親とゲハヂ、顔を見合わせる。

父親:
(商人のほうを向いて)ああ、じゃあひとつもらおうか。(ふところから財布を捜すしぐさ)

そのとき、羊の群れの音。ざわめく音、うるさい鳴き声。バア、バア。 羊飼い、下手から登場。羊を連れているしぐさ。 羊飼い登場

ゲハヂ:
あ〜。 かわいい〜。 (しゃがんで手を出して、羊に触ろうとする。) ちっちゃいねぇ。

老羊飼:
かわいいじゃろ? 今年の春生まれたんじゃよ。

ゲハヂ:
なんていう名前なの?

羊飼:
ルー。

ゲハヂ:
ルー? ルールー。 きゃはは。 なめた〜。(くすぐったがる)

ゲハヂがルーとたわむれている間、ごく低音で下手から地響きが聞こえている。 地響き、だんだん大きくなり、観衆にもわかる程度になる。

ゲハヂ、羊飼い、顔を上げて下手を見る。 ゲハヂ、父親と顔を見合わせる。

ゲハヂ:
なに? あの音?

老羊飼:
ローマ軍だ。 あぶないから下がって下がって。

ゲハヂ:
軍隊なの? (背伸びをして下手を見る) うわ。 すっげー。

地響き、はっきりとわかるほど大きくなる。「ンゴゴゴゴ」から「ずどどどっど」という感じに変化。人々、ゲハヂ、メインステージ上からフロントステージ側へ(手前へ)後ずさる。ゲハヂ、父親、羊飼いは、その人垣に押されながらよりさらに手前(観客側)に下がる。ゲハヂと父親、離れ離れに。

父親:
ゲハヂ!(ゲハヂのほうへ手を差し伸べる)

ゲハヂ:
お父さん!?(一瞬父親のほうを振り向き、父親と手をつなごうとするが・・・)

羊飼:
あっ、ルー。 まて、ルー。(一瞬、ひづめの音が高くなる。馬のいななき)

ゲハヂ:
(舞台正面奥に振り向きざま)大変!! ルー。 そっちに行っちゃダメ!(かけ出す)

父親:
ゲハヂ!

ゲハヂ、スクリーンの裏側に駆け込み、見えなくなる。その手前、フロントステージいっぱいに野次馬の人垣ができる。(地響きを伴った音ははっきりわかるいくつかの音のモチーフとなる。 ひづめ、馬、大八車のような車輪のきしみ、叫び声。羊の声。ボリューム最大。 やがて右チャンネル側へフェードアウトしてゆく。) 町人(ゆめこ)だれかあ! 男の子が! 父親 ゲハヂ!!(垣根を分けて、奥へ) 舞台全体に、人垣が、背を向けて中央奥を見ている。 馬車の音、フェードアウトし完全な静寂となる。 静寂。人垣が中央から左右に分かれる。 中央に横たわるゲハヂ。抱く父親。

父親:
(弱々しく)ゲハヂ、ゲハヂ・・・

老羊飼:
(おろおろと)わしの羊を助けようとして、戦車にひかれちまったんだ。  わしの小羊を助けてくれたんだ、この子は。

町人:
(しっかりした声で)大変だよ、大けがじゃないの! すぐに手当てをしなくちゃ!

羊飼:
そこに宿屋がある。ひとまずそこに運んで手当てをしてもらおう。


羊飼い2人でゲハヂを抱え、下手へ。父親もあとから、おろおろとついていく。(この間、スクリーンに馬小屋が映し出される) 彼らの前に、宿屋の主人が立ちはだかる。

男主人:
おいおい、よしてくれ。こりゃあ血だらけじゃあないか。

女主人:
うちの中へなんかかつぎこまれちゃあ、こっちがめいわくだよ。

ついてきた羊飼い、宿屋にくってかかる。

羊飼:
なんだとお? いったいおまえらは・・・

町人:
よしなよ、けんかしてるばあいじゃない。ほら、あそこにある、あんたとこの横にある、あの馬小屋(と、あごでスクリーンのほうをしゃくる)、あそこならいいでしょう。(歩き始める)

主人、腕を組みながらも、頭をふり、手をしっしっと振って、好きにしろというしぐさ。下手に退場。

【第三幕】馬小屋、ゲハヂの死

照明落とす。舞台中央に明かり。 スクリーンにはさっき映った馬小屋の壁の反対面(内側)が薄暗く投影されている。

町人:
この子を寝かすところがないよ。

町人:
あそこに、飼い葉おけがあるよ。あれに寝かせよう。

ベンチを舞台奥から前に出す。羊飼い、町人、ゲハヂをベンチの上におろす。 (ひとりが高くカンテラを掲げる) 父親、ゲハヂのそばによってくる。

父親:
(ゲハヂの手をとり)ゲハヂ、ゲハヂ、・・・・・・ゲハヂ! ・・・ああ、ゲハヂが・・・。


葬送の音楽、静かに入る。 ゲハヂのそばで顔を拭いたりしていた羊飼いたち、うなだれて立ち上がり、一歩下がる。 周りの羊飼い。胸に手を当てて、頭を下げる。ひとりの羊飼い、父親に歩み寄り、

老羊飼:
親父さん、これからは、わしらといっしょに暮らそうな。・・・な、そうしよう。

【第四幕】ベツレヘムの馬小屋(現在)

オルガン横 上ステージにスポット、第一幕の最後のシーンと全く同様にゲハヂとガブリエルが椅子に腰掛けている。

ゲハヂ:
とうさん・・・ごめんよ。 とうさん。(ゲハヂ、手の甲で、涙をぬぐう。)

ガブリエル、ゲハヂの肩を抱く。ゲハヂ、ガブリエルを見る。

ガブリエル:
(スクリーンの馬小屋をさして)ほら、見てごらん。私たちは今夜、またあそこへ行くのだ。

音楽。静かに、やさしく。 馬小屋(外側)の映像がスクリーンに投影される。 しかしさっきまでのシーンとは明らかに異なる光が満ちている。

ガブリエル:
主、イエスが、こよい、ここでお生まれになったのだ。

ゲハヂ:
(立ち上がり)あ、ぼくが寝かされていたところに、イエスさまが。 ぼくの、あの飼い葉おけに・・・。

ガブリエル、立ち上がり、天使たちに合図。 天使たち上手から登場。 ガブリエルとゲハヂも階段を降り、ガブリエルを先頭に上手に整列する。 暗転。

【第五幕】ベツレヘム郊外、草原

照明、薄明るく。夜。 スクリーン、郊外の原っぱに。夜。羊の群れが眠る。バア、バアと、かすかに羊の声。 羊飼いたち、下手から登場。疲れた様子で、フロントステージ中央より下手側に座り込み、 横になる。 ゲハヂ、舞台上手から登場。照明明るく。

ゲハヂ:
(うれしそうに呼ぶ)おとうさん!

羊飼いの中にいる父親が、体を起こし、きょろきょろあたりを見回す。 もう一度、ゲハヂが呼ぶ

ゲハヂ:
とうさん!

父親、ゲハヂに気づいて、ひざまずく。

父親:
ああ、ゲハヂ・・・。ゲハヂ!!

ゲハヂ、父親と少し距離を置いて、舞台上手。笑いながら立っている。 ガブリエル、天使たち(りょう、ゆい、あきらなど)登場。(鈴の音など??) 駆け上がりステップ上に並んで立つ。 ガブリエル、メインステージ中央、ゲハヂと羊飼いの間に立ち 舞台正面を向いて手を広げ、

ガブリエル:
恐れるな、見よ。すべての民に与えられる大きな喜びを、あなたがたに伝える。きょうダビデの町に、あなたがたのために救主がお生れになった。この方こそ主なるキリストである。あなたがたは、幼な子が布にくるまって飼い葉おけの中に寝かしてあるのを見るであろう。それがあなた方に与えられるしるしである。

天使たち(コーラス):
グロリア、グロリア、グロリア!
パトリエット フィリオ
グロリア、グロリア、グロリア!
スピリトゥイ サンクト

(全員で、ゲハヂも)いと高きところでは、神に栄光があるように、 地の上では、み心にかなう人々に平和があるように。

音楽入る。パイプオルガンなど。短く荘厳に。ガブリエル、ゲハヂ、天使退場。 ゲハヂ、最後に、父親に向かって手を振りながら退場。 照明落とす。ふたたび夜の静けさ。 羊飼い、われに返る。そわそわと動き出す。立ち上がり、

老羊飼:
ベツレヘムの町で・・・、飼い葉おけの中に・・・。

羊飼:
だが、天使が言った飼い葉おけはどこだろう? ベツレヘムの町は小さいが、馬小屋や牛小屋は百以上もあるじゃないか。

舞台上手正面で呆然としていた父親、ここですっくと立ち上がる。

父親:
(りんとした声で)わしが知っている。知っているとも。さあ、行こう!

父親、しっかりと歩き出す。ほかの羊飼い、あわてて杖をとり立ち上がり、後に続く。 下手へ。退場。

【第六幕】ふたたび馬小屋、エピローグ

スクリーン、馬小屋に。 音楽。「さやかに星はきらめき」ピアノで小さく、静かに。 赤ん坊を抱いたマリアとヨセフ、上手から登場。 ヨセフ、ベンチを舞台中央に出し、そのうえに藁を敷く。 マリア、赤ん坊を藁のうえに置く。マリア、ヨセフ、脇にひざまずく。 下手から、父親、羊飼い登場。中央飼い葉おけの後ろへ並ぶ。 舞台正面を向き、飼い葉おけとマリア、ヨセフを取り囲むようにひざまずく。 ゲハヂ、ガブリエル、天使登場。羊飼いたちの後ろに立つ。ゲハヂ中央。

ナレーション:
ベツレヘムの馬小屋、飼い葉おけの中にお生まれになったイエスさま。
マリア、ヨセフ、羊飼い、天使、そしてゲハヂとお父さん。
さげすまれ、しいたげられた人々に見守られ、 神の使いから、祝福を受けて。
聖なるこよい、天使の歌声は、世のすみずみにまで、あまねく満ちあふれている。

讃美歌第二編 219「さやかに星はきらめき」ソプラノソロ、ピアノ伴奏

さやかに星はきらめき
み子イェスうまれたもう。
長くも、やみ路をたどり
メシヤを待てる民に、
あたらしき朝はきたり
栄えある日は昇る
いざ聞け、みつかい歌う
たえなるあまつみ歌を
めでたし、きよしこよい。







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